4,270万人を超える訪日観光客がゴールデンルートに殺到する一方、リピーターたちは静かに地方へ向かい始めた。金沢、長門、帯広——「観光公害」の向こう側にある、本当の日本との出会いを探る。
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2025年、日本を訪れた外国人観光客は4,270万人を超えた。東京のスクランブル交差点、京都の伏見稲荷、大阪の道頓堀——いわゆる「ゴールデンルート」には、世界中から押し寄せる旅行者で溢れかえっている。
しかし、その華やかな数字の裏側には「観光公害(オーバーツーリズム)」という深刻な課題が横たわっている。住民の日常生活への影響、文化財の劣化、交通機関の混雑。京都では一部の路線バスに観光客が乗りきれず、地元住民が通勤できない事態が日常化している。

そんな中、2026年の日本観光に静かな、しかし確実な変化が起きている。リピーターを中心に、旅行者たちが「次の目的地」を地方に求め始めたのだ。
地方シフトの背景——リピーターが牽引する新しい旅のかたち
2026年の訪日外国人旅行者数は4,140万人と予測されている。注目すべきは、その内訳の変化だ。韓国からの訪日客が中国を抜いて最大のグループとなり、台湾、欧米からのリピーターも急増している。
彼らに共通するのは「もう東京も京都も行った」という経験値の高さだ。2回目、3回目の訪日では、有名観光地の人混みを避け、より深い日本文化の体験を求める。地元の祭り、職人の工房、温泉と地元料理——「モノ消費」から「コト消費」、そしていま「価値消費」への転換が加速している。

日本政府もこの流れを後押ししている。観光庁の2026年度予算は前年比2.4倍の1,383億円に拡大され、その柱のひとつが「地方誘客による需要分散」だ。旅客税も3,000円に引き上げられ、増収分はオーバーツーリズム対策と地方観光の振興に充てられる。
穴場エリア① 石川・金沢——京都の静かな双子
「京都の混雑にうんざりしたなら、金沢へ行け」——2026年、旅行メディアでそう囁かれるようになった石川県金沢市。加賀百万石の城下町として栄えた歴史は、京都に負けない文化の厚みを持つ。
兼六園は日本三名園のひとつでありながら、京都の嵐山竹林と比べれば遥かに静かだ。ひがし茶屋街の格子戸の町並みを歩けば、芸妓文化が息づく空気を感じられる。近江町市場では日本海の新鮮な海の幸を味わい、金沢21世紀美術館では現代アートに触れる。

2024年に全線復旧した北陸新幹線により、東京から金沢までわずか2時間半。能登半島の復興も進み、輪島朝市や千里浜なぎさドライブウェイなど、金沢を拠点にした周遊ルートも魅力的だ。
穴場エリア② 山口・長門——日本海の絶景と棚田
山陰地方はインバウンド率が特に低い、まさに「知られざる日本」だ。中でも山口県長門市は、日本海に面した絶景と、山間部に広がる棚田の美しさで旅行通をうならせる。
元乃隅神社の赤い鳥居が海に向かって連なる風景は、SNS時代に世界的に注目を集めたが、実際に訪れる外国人観光客はまだ少ない。人混みに邪魔されることなく、日本海の荒々しい自然美を独り占めできる贅沢がここにはある。

長門湯本温泉は、星野リゾートが再生に関わったことで注目を集めるリノベーション温泉街。川沿いのライトアップされた散策路を歩きながら、地元の日本酒と河豚(ふぐ)料理を楽しむ夜は、東京では決して味わえない体験だ。
穴場エリア③ 北海道・帯広——グルメ×温泉の宝庫
北海道は外国人にも人気の観光地だが、多くの旅行者は札幌、小樽、函館に集中する。しかし、道東の帯広市には「食と癒しの楽園」が広がっている。
帯広の特徴は、街全体がコンパクトにまとまっていること。世界的にも珍しいモール温泉(植物性温泉)を市内で楽しめ、十勝の広大な農園風景の中でファームステイも体験できる。帯広名物の豚丼は、甘辛いタレで焼き上げた豚肉が白飯の上で輝く、シンプルだが中毒性のある一品だ。

冬にはばんえい競馬という世界唯一の競馬を観戦でき、夏は十勝の花畑が一面に広がる。「何もない」のではなく「すべてがゆったりとある」——それが帯広の魅力だ。
「価値消費」時代の旅のかたち
2026年の訪日観光は、大きな転換点を迎えている。数を追い求める時代から、質を深める時代へ。混雑する有名スポットを駆け足で巡る旅から、ひとつの地域にじっくり滞在して文化を味わう旅へ。
地方には、東京や京都では失われつつある「日本の日常」がまだ息づいている。早朝の市場で漁師と言葉を交わし、温泉宿の女将に地元の歴史を聞き、祭りの熱気の中に溶け込む。そんな旅こそが、「観光公害」の向こう側にある本当の日本との出会いなのかもしれない。
旅の目的地は、もう東京と京都だけではない。日本の「次の定番」は、あなたがまだ知らない小さな町で、静かにあなたを待っている。

